船旅というのは概ね優雅なものだと思っていたが、僕の想像以上に優雅なものだった。
まるで魚市場のマグロのようにそこらじゅうに酔っ払いのおっさんがよこたわっているのである。
踏まないように気をつけながら風呂に入り、カレーを食べたら気持ち悪くなってきた。
カレーのルーとご飯の割合が違ってルーがあまったから、という理由でなく単純に乗り物酔いしやすいのだ。
そんなわけで、酔っ払いのおっさんと大差なく、僕も横になっているのである。
二年半務めた会社を辞めたから、九月いっぱい夏休みをとっている。
はじめは気楽な気持ちだったんだけど、何もしないというのは、確実に人を蝕むらしい。
どうしようもなくなり、沖縄に行ったけど、暑く、日焼けしただけだった。
東京で数日ダラダラ過ごし、脳みそが半分くらいに縮んできたので、今度は北海道に行くことにしたのだ。
美味しいものが食べたい。
それだけの理由だった。
新潟まで夜行バスにのり、そこらかのフェリー。
フェリーに乗ってからは、先ほど書いた通りだ。
ゲッツ板谷の『ワルボロ』を読み終わり、レストランで夕食を取ることにした。
『ワルボロ』は、立川を舞台にした、作者の中学生時代の自伝的小説である。
僕の中学時代にも悪いやつはいたし、やっぱりモテていた。あの時少しでもそっち側に進んだら少しは思い出があったのかなぁと思ってしまう。
船内のレストランは、なかなか悪くない。
きっといつか、また、今度は誰かと一緒にフェリーに乗って旅をしたいなぁと思う。
夕食はビュッフェ形式だ。
ビーフシチュー
スモークサーモンのサラダ
ナスの田楽
ご飯
なんとも取り止めのない献立になってしまった。
スモークサーモンのサラダに和風胡麻ドレッシングは合わなかったが、ビーフシチューは、ご飯がよく進む。
多すぎた晩御飯を消化する為に『色即ぜねれいしょん』を見た。
学生時代にする旅の良さを再認識させられた。
学生でもなく、一人旅をしてる僕はなにを目指してるんだろうか。
船の消灯は何時だろうか。暗くなると本が読めなくなるから困るなぁ。
しかし携帯の電波が入らないというのは、言いようのない不安感がある。
そして、やはりMなのか、そんな境遇を少しだけ楽しんでいる自分がいる。
おっと、電波がはいった。
現在北海道江差沖である。