ニューヨークのメインストリートから、21世紀にまだ残っているのが不思議なくらいの狭い路地を2本か3本抜けるとその店にたどり着くことができる。
この店に来るのは、備え付けの家具みたいにいつも同じ席に腰掛けている老人と、僕みたいに早起きすることができた休日にだけ顔を出す人。
そして、道に迷い、道案内と喉の渇きを癒すために(この店に来るまでの路地は少しだけ坂になっているのだ)来た一見さんの三通りだ。
少し前のニューヨークなら、どこにでも溢れていたような内装の、今となっては骨董品のような店だ。
僕はそこで貴重な休日が、最高のスタートをきれるように、世界で一番おいしい、この店のフレンチトーストを食べに来たのだ。
カフェにしては少し思い扉を開け、カウンターの真ん中に腰をかける。
「おはよう、最高の一日を。」
「おはよう、マスターこそ。」
そういってマスターがフレンチトーストとコーヒーを出す。
コーヒーからはやわらかな湯気と、目が覚めるような香りが漂っている。
世界一のフレンチトーストは、朝日がそうさせるのか、まるで金塊のようにきらきらと輝いている。
その時はまだ、最低な一日になることは想像もつかなかった。
フレンチトーストを口いっぱいに頬張る僕は、なんと能天気だったことか。