連休明けの火曜日。重い体を引きずりながら、今週は四日で休みだからと自分に言い聞かせ出社する。
先週までに片付かなかった案件の調整をしているうちに一日は終わってしまった。
19時をすぎると、自分自身で集中力が落ちているのがわかったから、会社を出ることにした。
昼間は暑かったけど、夜になると涼しい風が吹いている。
駅までの10分間。いつも一人でとぼとぼと歩く道を、今日はサッカーがあるということで、
早めに帰る先輩と一緒に歩くことになった。
サッカーに詳しくない僕は、一人暮らしってことくらいしか先輩と接点がなかったから、最近はまっている自炊の話をした。
「最近フライパンを買ったんですよ」
『おー、いいやつ?』
「いや、安いやつです。でも焦げ付かないから料理作るのが楽しいんですよ」
『そうかー、いいね、自炊』
「はい、料理って、上手な人は調理しながら片付けるじゃないですか」
『そだねー、俺はいつもぐちゃぐちゃだわ。片付けがめんどくさいから自炊はしない』
「はは、先輩らしいですね。話は飛躍しちゃうんですけど、人生も終わるときって、綺麗に片付けたほうがいい気がしますよね」
『んー、どうだろ、いつもそういうこと考えてるの?』
「はい、基本的にいつもこんなです」
『そうかー、真面目なんだね』
目の前の信号が点滅しだしたので、二人で走った。
この横断歩道は、おばあちゃんなら渡りきれないくらい長い。
そのわりに青になってる時間は短い。
赤になると、待ってましたとばかりに車が横切る。
少しあがった息を整えながら、僕は先輩に聞いた。
「先輩はそういうこと考えないんですか?」
『考えないなー。サッカーのことと、ビールのこと、あと仕事のことは、考えないな』
そう言ってアハハと笑う先輩は、強い人なんだろうなと思う。
僕なんかと比べ物にくらい強い人なんだろう。
それとも僕が弱すぎるんだろうか。
「死に向かってどんどん片付けていって、最後はなんにも残らないって悲しいですよね」
『うん、悲しい』
「昨日それに気づいてまだネガティブなんです」
あとでわかったんだけど、総武線に乗る先輩は少しだけ遠回りして、僕が乗る電車のホームを通って自分の乗り場に行った。
『料理がうまい人はさ』
「はい」
『料理が終わって、片付けも同時に終わるんでしょ?』
「そうですね」
『片付け終わったキッチンだけ見たらなにも残ってない』
「はい」
『でも、うまい人ってのは、料理と片付けが終わったとき、テーブルにいっぱい美味しそうな料理を並べることができるんじゃない?』
「あ、そっか」
『そう、だから死ぬのも、生きるのもそんなに悪くないんじゃないの?お前の葬式には俺出てやるよ』
「先輩の方が先に死んじゃうんじゃないですか?」
『いや、俺はW杯で日本が優勝するところを見るまで死ねない!』
「あはは、じゃあ、一生死ねないですね」
『そうなんだよーっておい!』
「ありがとうございます、なんか元気でました」
『いやいや、話せて面白かったよ』
「あ、はい。僕もです」
『今度飲みに行こうぜ』
「ぜひ。給料日後じゃないとしんどいですけど」
『そだね。あと、今日サッカー見ること。日本応援しろよ』
「んー、はい。見れたら見ます」
『おっけー、じゃあまた明日』
ちょうど僕の目の前には電車が滑り込んでくる。
エスカレーターに乗る先輩の後姿を見ながら、電車に乗り込む。
さて、今日は帰って何を作ろう。