とりあえず食ってみる

気になるモノは食ってみる、気にならないモノもとりあえず食ってみる

終点にならない街、蒲田

JR蒲田駅には西口と東口がある。

 

西口はドンキホーテがあって治安が悪い街、東口は風俗街があって治安が悪い街。

 

端的に言うと蒲田とは全方位的に治安の悪い街ということだが、治安が悪くてもそこそこの通行人がいるということは、どこかしら人を惹きつける魅力のある街だという証明である。

 

ここでは、キネマの話をするつもりもないし、新ゴジラの話をするつもりもない。ただ私が住んできたありのままの蒲田の話をしたいと思う。

 

大田区のはずれから蒲田に引っ越してきたのは社会人2年目、黒光りするブラック企業の中でもがき苦しんでいた時だった。

 

東急池上線で五反田まで出て、JRに乗り換えて会社の最寄駅までいく時間が惜しくて、でもブラック企業を辞めて自由になるという選択肢は、故郷を捨て東京に出てきた私にとることができなかった。

 

会社を辞めることが東京でのきらびやかな生活(実際はコンビニと家と会社の3点移動のみ)を諦めるということになるからだ。

 

そんな消極的な理由で蒲田に引っ越してきたので、家を決める時もどこか他人事のようになっていた。

 

まだドンキホーテができる前のJR蒲田駅西口から歩いて10分。

築50年をむかえる木造のアパート一階、大家さんが育てている謎の木のせいで日当たりは最悪。いつでも電気をつけないと生活できないような家だった。

 

まだ前の住人が出て行ってすぐで、壁紙もこれから張り替えるという。

 

「ここからここまでは真っ白の壁紙を、この壁だけスカイブルーの壁紙にするつもりです。部屋がグーンと広くなりますよ」

 

「そして天井には蓄光の星の壁紙を貼ります。電気を消したら天井に星空が広がりますよ」

 

案内してくれた不動産屋は矢継ぎ早にアピールポイントを述べ、笑顔を浮かべた。

 

その笑顔の主と書面で盛大な火花を散らすのはまた別の話。

 

私は、スカイブルーの壁紙も、星が光る天井も、ラブホテルみたいだな、と思った。

 

引越し当日、お部屋の住人だった私は、近くに引っ越していた中学の同級生と、たまたま暇で東京にきていた高校の同級生に手伝ってもらい、引越しすることになった。

 

体を使うのが苦手なので、友達に頑張ってもらい、最後は引越しそばではなく奮発して宅配の鮨をとろう、それも並じゃなくて、上を。たぶん蒲田なら都会だから宅配の鮨もあるだろう。

 

前の家から荷物を運び出し、そのトラックに乗せてもらい、蒲田の新居にたどり着いた。

 

新居のドアを開けた。そこは、ラブホみたいな部屋だった。

 

荷物を運び入れ、値段にドキドキしながら上の鮨を2枚とって、3人で食べきれなかった。

 

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もう高校生の頃みたいに食べれないよねと3人で笑った。

 

蒲田はいい街だった。西口から東口に、東口から西口に絶え間なく人が行き来し、文字通り眠らない街だった。

 

松屋もあるし吉野家もあるし、(ちょっと駅から離れるけど)すき家もある。そんな蒲田での生活は充実した日々だった。

 

この家には7年住んだ。冬は寒く、夏は暑い、最低な家だった。その間にブラック企業から真っ白な企業に転職し、年収も上がった。

 

今のままの部屋じゃ狭いよね、ということで広い部屋に引っ越すことにした。

今度は二人で納得のいく部屋を選び、私たちは蒲田駅西口から東口に引っ越した。

 

友人に蒲田から蒲田に引っ越したと話すと、蒲田好きだねとからかわれる。

消極的な理由で選んだ蒲田が、今は何よりも大事な街になっていた。

 

なぜ蒲田が好きなのだろうか。私の出身地と少なからず関係がある。

私は福岡県大牟田市という、福岡県と熊本県の県境に生まれ、18まで過ごした。

 

大牟田市は天神駅から出る西鉄大牟田線の終点。

以前は炭鉱町として栄えたが、閉山後は新しい産業もなく、大学もないこの町からは若者は出て行くばかりだった。

 

友達と一緒に毎週バトルえんぴつを買いに行った本屋は閉店し、デパートも、そのデパートの地下にあった美味しいたこ焼き屋さんも、なくなっていった。

 

どんどんどんどん町からお店も、人もいなくなっていく。その環境から抜け出したくて東京に出てきた。

 

蒲田は東京の中でも特異な街だ。

羽田空港からは引っ切り無しに人が訪れるし、逆に羽田空港に行くために人も訪れる。

 

東急もあり、京急もある、川崎や横浜も近いし、品川から新幹線だってすぐに乗れる。

 

蒲田は終点でなく、これから旅が始まる、もしくは旅が終わって日常生活に戻る街だ。

 

終点の駅は寂しい。それ以上先に行くことはどうやったってできないし、そこから先から人が来ることもない。

決して終点にならない街だから蒲田が好きなんだろう。

もしかしたら人生の最後の方、地元に戻って終点の駅で暮らすこともあるかもしれないし、ないかもしれない。

 

でも今の私にとっての一番の街は蒲田で、これから先の人生で羽田空港経由どこか遠くの海外になるかもしれなしい、蒲田から穴守稲荷に引っ越すかもしれない。

 

今が終点でないということが一番安心させてくれる。そんな蒲田は今日も喧嘩がおきていたり、元気ないい街です。

 

注)京浜東北線蒲田止まりの電車はありますが、そのあとタクシーで自宅を目指している人が多いので、終点ではないと考えてます。

 

書籍化記念! SUUMOタウン特別お題キャンペーン #住みたい街、住みたかった街

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by リクルート住まいカンパニー